日本海軍最後の大将「井上成美」。
リベラリストで徹底した合理主義者と知られる軍人。
そんな、自分とは正反対な人物について調べ始めたのは、つい最近のことでした。
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「井上成美」との出会い

きっかけは、「旧海軍で横須賀に有名な人物はいないのか?」とふと疑問に思ったことからでした。横須賀で育ち、それなりに横須賀に愛着がある私ですが、横須賀に住んでいた海軍出身の偉人はいないのか疑問に思っていました。
元々、私は旧海軍に興味があり、最近になって暇を見つけては横須賀探訪をしています。
丁度その時に「井上成美記念館」を見つけ、この人物に興味が湧いてきました。
(※現在、井上成美記念館は閉館しています。詳しくは→井上成美記念館&横須賀熊野神社へ
「海軍三羽烏」として有名ですが、、正直何をした人なのかがあまりパッとでてきません。さっそくインターネットで検索してみると、彼に対して賛否両論の意見が。
山本五十六や米内光政、鈴木貫太郎などとは異なり、なかなか取り扱うには難しい人物かな?というのが第一印象でした。
兎にも角にも、もっと詳しく調べてみないことには始まりません。
インターネットの情報だけでなく、もっと詳しく書かれている書籍を探しました。
そこで出会ったのが2冊の本「井上成美 著:阿川弘之」と「わが祖父井上成美 著:丸田研一」でした。

「井上成美 著:阿川弘之」

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昭和五十年暮、最後の元海軍大将が逝った。帝国海軍きっての知性といわれた井上成美である。彼は、終始無謀な対米戦争に批判的で、兵学校校長時代は英語教育廃止論をしりぞけ、敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた。「山本五十六」「米内光政」に続く、著者のライフワーク海軍提督三部作完結編。
阿川弘之氏は海軍予備学生として海軍に入り、のちに作家として様々な書籍を残しました。
普段本を読まない私にとってこの本は、なかなか骨が折れました。
分厚さもありますが、古い表現だったり、段ごとに話があっちこっちにいったり…。
今何を話しているのかを確認しながら読み進めるのが大変でした。
それは私自身の知識が足らない所為でもありました。
しかし歴史の勉強としても、かなりの勉強になりました。
阿川氏は、実際に終戦後隠居生活をしていた井上成美に取材を行っています。
また、かなりの人物に対して取材を行ったそうで、本の内容もその取材を基に忠実に語られています。
決して、傾倒しているわけでもなく、様々な人の話から明かされる「井上成美」という人物像を学ぶことが出来ます。
特に個人的に面白いと思ったのが、彼は定時に仕事を終わらせて就業後はピアノなどを弾いていたことです。そして、就業時間は極力仕事を受けない姿勢には驚きました。私がイメージしていた海軍は、時間感覚もない大変忙しいイメージでしたが、彼は全く違うようです。
「やるときはやる、休む時は休む。それが海軍の伝統」と彼自身言っていたそうですね。
とても素晴らしい言葉だと思います。
また、ひそかに終戦工作を行っていた裏側などの話や終戦後の暮らしぶりについて書かれており、「井上成美」を知るうえで欠かすことのできない一冊でした。

「わが祖父 井上成美 著:丸田研一」

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―これを書いていて、私は自身の「井上成美観」が少しずつ変化していくのを意識しました。伝記の編集に取りかかったばかりのころは、本文に書いた通り「何も知らぬ孫」で、井上の祖父はただやたら怖いだけの人でした。伝記が完成して、祖父の生き方に新たな畏敬の念が生じました。
井上成美と自分との間にまだ距離があって、遠慮しながら筆を進めるようなところがありました。できるだけ今までに出版されたものに触れられていない成美の私的な側面に光を当てることを心がけつつ書き進めるうちに、「信念の人」とか「堅物」とかいわれる厳しい側面ばかりではない成美の優しさや、人としての情を知り、井上成美との距離感が徐々に狭まってくることを覚えました。
-丸田研一「わが祖父井上成美」 あとがきより引用-
丸田研一氏は、成美唯一の直系のお孫さんです。
身内が書かれた大変貴重な書籍となっております。
お孫さんと言っても、幼い時に養子にだされ、「井上成美」と暮らしていた時期というのはあまり多くはありません。ですが、丸田氏は井上成美伝記の制作にかかわるうちに、自分の祖父について知ることになります。幼少期の「ただただ怖い人」というイメージから少しずつ違った考えになっていくのは、読んでいる私でもとても感慨深いものでした。
普段語られることのない「井上成美」の人間としての側面が多く語られており、この本を読むと全く違う「井上成美観」を知ることが出来ます。
この本は、前述の本と比べると大変読みやすく、また歴史的資料としても価値があると思います。太平洋戦争に最後まで反対し、終戦工作を行った日本海軍最後の大将。
その知られざる姿がこの本で明かされます。
お勧めです。

「井上成美」から学んだこと

・井上成美の「人間性」
上記2冊の本を読んで、「井上成美」の人間性について本当によく学べました。
インターネットの情報や一部の情報だけでは、決してわからない「人として」の部分は是非とも色々な方に知って頂きたいですね。
これだけ頑固で理論派な彼でも、暗黙の了解的な情報漏洩?などもこっそり行ったり、娘さんのお見合いを成功させるために嘘を書いたりと人間臭い部分がたくさんあります。
「わが祖父井上成美」の冒頭部には、彼が写った貴重な写真が掲載されています。
そこには、孫の研一氏を抱きかかえる「井上成美」の姿が。
心なしか嬉しそうな表情をしています。
どんな人間でもこういった部分があり、自分が見ている部分は極わずかであると再認識できました。

・井上成美の「先見性」
彼の恐るべき先見性には驚くばかりです。
「先見性」の具体的な話は「戦争反対」や「教育」などありますが、その詳細は上記の本を読んで頂きたい。私の語彙力では伝えられそうにありません…。
ただその先見性は、決して勘や適当な予想ではなく、徹底した理論をもとに構築されています。彼が残した資料には、現在社会にも通ずる「グサッ」とくるようなことがたくさん書かれています。さらにその徹底した理論を基にした先見性は、決して曲げない信念によって突き通します。
間違っているものは間違っている、正しいものは正しい。
簡単に思えても、なかなかこの事を声高々に言うことは難しいものです。
けれど、彼は屈することなく信念を突き通しました。
戦で活躍するヒーローとはまた違う、会議室で戦うヒーローのようでした。

・井上成美の「教育」
「井上成美」=「反戦」ではなく、「井上成美」=「教育」だと個人的には思います。
彼の代名詞と言っても過言ではないと思います。
海軍兵学校や終戦後の英語塾などで、彼の教育に対する考えを知ると、とても勉強になります。ただただ、大人の都合に合わせたその場しのぎの教育ではなく、子供達の未来を見据えた教育論は、現代社会でもまだまだ見習うべきものが多いと思います。
ただし、お孫さんの教育にはなかなか手を焼いていたようですね。
当時の状況が状況ですし、本来は嫁入りした娘のお孫さんですから、昔の考え方だと仕方のない部分があったのかもしれませんね。

あとがき

ひょんなことから知った「井上成美」。
どんどんと惹きこまれ、自主的にこんなに調べたのは久しぶりです。
私自身、教える立場になったことがあり、その考え方には苦労しました。
「井上成美」を知ることにより、どう教育していくのか、どう自分で学んでいくのか、何を学ぶべきなのかを考えることが出来ました。本当に感謝です。
ただ正直、もし自分の上司だったら嫌だなぁとは思ったり。
理論武装で来られると、面倒くさいんですよね笑
ただ、「めんどくさい」と思っていることは、自分自身考えていない状態なんですよね。
だから、文句しか出ないし成長もしない。
どんどん考えて、意見を出し合っていくべきなんです。
自分ももっと前に気づくことが出来たらなぁと思ったり。
それと、私はあの戦争がどうのこうの言うつもりはありません。
私は、「井上成美」という一個人に興味を持っただけなんです。
彼の考え方、意外な一面、優しさ、そんな部分を調べてみたいと思っただけなんです。
このような方が横須賀に住んでいたというのはちょっと誇らしいですね。